終わると思った案件が終わらない理由

終わると思った案件が終わらない理由

なぜ「終わった」はずの案件が戻ってくるのか

ようやく一つ片づけた、と思った矢先に「すみません、実は……」と連絡が入る。司法書士をしていると、こういった“終わったと思ったのに再浮上する案件”に出会う機会が少なくありません。特に自分のように地方で一人事務所を回していると、ひとつひとつの案件の重みが違う。終わったはずの案件に手を取られるたびに、精神的な疲労感は倍増します。「何のために昨日遅くまで頑張ったんだろう」と、深いため息をつく日もあります。

思い込みの完了報告に潜む罠

一件落着、と書類を片づけ、ファイルを棚に戻したタイミングで「まだだったんですか?」と電話が鳴る。完了報告を受けたはずの依頼者が、「あ、そういえばもう1通追加で…」と言い出す瞬間。司法書士あるあるです。書類上では完了しているのに、現場ではまだ“終わっていない”というズレが発生するんです。

「完了」と「終了」は違うという現実

仕事をするうえで、「完了しました」と言っても、相手にとっては「終了していない」と感じられてしまう場面があります。たとえば登記が終わっていても、その報告が届いていない、もしくは登記簿の写しがまだ手元に届いていないなど、細かいところに“ズレ”が生まれます。書類の処理というより、心の納得が得られないという問題でもあるんですよね。

チェックリストで抜け落ちる“感覚のズレ”

私も業務の効率化のためにチェックリストを使っていますが、それでも感覚的なズレは埋めきれません。たとえば「送付済み」にチェックを入れても、相手がそれを確認できなければ、実質“未完了”扱いになる。形式と実態のギャップは、チェックリストだけでは補えないという現実があります。

関係者が多いほど終わらない構造

司法書士の業務には複数の当事者が絡むケースが多いです。不動産登記ひとつにしても、売主・買主・仲介業者・銀行・司法書士と、関わる人間が多い。誰か一人でも「ちょっと待ってください」と言えば、その瞬間にすべてが止まります。いや、止まるだけならまだマシで、逆戻りすることすらあるんです。

依頼者よりも後出しの関係者に振り回される

一番多いのは、依頼者が「すべて揃いました」と言ってきた後に、別の関係者が「実はこの書類が足りない」と言い出すパターン。たとえば銀行が直前になって担保書類の内容に不備があると指摘してくることもあります。その時点で修正対応が発生し、もう一度一連の確認作業が必要になります。

「これもお願い」の追加地獄

「これもお願いできますか?」が一番怖い言葉です。本来の業務とは直接関係のない事務手続きや、家族への説明対応まで丸投げされることもあります。優しさを見せたつもりが、それが“やってくれる人”という印象につながり、案件が増える。気づけば、最初の依頼よりも後から来た「ついで」の方がボリューム多い、なんてことにもなります。

終わったと思った日に限って届くFAXとメール

今日は早く帰れるな、そう思った日に限って「ピピピピ」とFAXが鳴る。メールには「急ぎでお願いします」の文字。なぜ、終わると思ったその瞬間に限って仕事が増えるのか。まるで見られているかのようなタイミングで届く連絡には、もはや呪いでもかかっているのかと思ってしまいます。

なぜか月曜朝ではなく金曜夕方に来る

これは不思議な現象なのですが、緊急の案件というのは、なぜか週明けではなく金曜の夕方に集中します。16時半ごろ、「週明けで大丈夫ですから」と言いながら送ってくるメール。でも、そう言われても、気になって週末を楽しめない。日曜の夜に気が重くなるだけならまだしも、土曜日の午前中に出社してしまうことすらあります。

「ついでにやっておいて」が一番重たい

「このついでに」「この流れで」と言われると断れないのが人情ってものです。が、これが本当に重たい。「ついで」という言葉の裏に隠された新規案件は、往々にして情報が足りないか、期日が短い。しかも依頼者は“軽い気持ち”で言ってくるから質が悪い。「それ、ついでじゃ済まないです」と言える勇気が、いつも足りません。

見なかったことにしたくなる気持ちとの戦い

正直、メールが来ても一瞬だけ「見なかったことにしようか」と考えることがあります。でもそれができるほど、私は図太くない。結局、夜遅くまで事務所に残って処理してしまう。誰にも褒められず、誰にも気づかれないまま、ただ案件が“処理されていく”だけ。どこかで線を引きたいと思っていても、その線すら消えていく感覚になります。

対策はあるのか それとも諦めるしかないのか

こうした“終わらない案件”にどう対処すべきか。正直なところ、完璧な対策はないと感じています。でも、少しでも自分の心を守るために取っている小さな工夫があります。それは、終わりを言葉にしないことと、頼れる人には素直に頼ること。特に事務員さんの存在が、ここ最近かなり大きくなってきています。

「終わり」を宣言しないという防衛策

私は最近、案件が終わっても「終わりました」と言わないようにしています。代わりに「今のところ一区切りです」とか「いったんここまでで」と伝えるようにしています。自分自身に期待させないためです。「よし終わった」と思った後に追加が来ると、本当にやる気を失うので、あらかじめ“終わってない前提”で動いていたほうが精神的にマシです。

あえて予告せず静かに処理するという技

また、無理に区切りをつけようとせず、ただ黙々と処理するという方法もあります。いちいち完了宣言をしていると、それに対してリアクションが返ってくる。その瞬間に新たな依頼が飛び込んでくることが多いので、あえて「言わずにやる」。これが案外うまくいくこともあります。誰にも見られず、自分のペースで動けるのはありがたいです。

気配を消すようにそっとファイルを閉じる

「この件、終わりました」ではなく、「……そっと棚に戻す」。そんなふうに、静かに完了させるようにしています。音を立てずに、気配を消して。これはまるで、野球部時代にこっそりグラウンドを後にした時のような感覚です。誰にも気づかれず、そっと幕を下ろす。それが、いまの私の精一杯のやり方です。

それでも救いはあるのか

こんな毎日でも、救いはあります。それは、事務員さんのひとことや、お客様の「ありがとう」という言葉。特に事務員さんが「これ、もう出しておきましたよ」と言ってくれると、本当に助かります。自分ひとりじゃないと思えるだけで、少し肩の荷が下りるような気がします。

事務員さんの「これ、もう出しましたよ」が救い

あまり褒めると本人に伝わるので控えめにしますが、事務員さんの存在は大きいです。自分が苦手な細かい部分、うっかり忘れてしまうようなことも、先回りしてやってくれている。自分が潰れずにいられるのは、この方のおかげだと本当に思っています。感謝を言葉にするのは照れくさいですが、心のなかでは何度も「ありがとう」とつぶやいています。

感謝を伝えることで、自分も少し報われる

誰かに感謝を伝えると、不思議と自分も少し楽になります。仕事が終わらない日々のなかでも、たった一言の「ありがとう」で、報われた気持ちになる。モテないし、家庭もないけれど、人に支えられている実感はある。そう思えるからこそ、また明日もこの仕事を続けようと思えるのです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。