朝起きて最初に浮かんだ言葉がこのままでいいのかだった
目が覚めて、時計を見るとまだ6時台。枕元にあるスマホに手を伸ばして、未読メールの数にげんなりする。ああ、今日もまた何件も登記の相談が入ってるなと思うと、ベッドから出るのが億劫になる。別に事件があるわけじゃない。ただ、同じような手続きが続くだけ。でもその「同じ」が、最近はやけに心に重くのしかかる。司法書士になりたての頃は、この日常を築くのが目標だったはずなのに、不思議と心が空回りしている気がする。
疲れが取れないまま始まる月曜日
土日にまともに休んだ記憶がない。結局、金曜の夕方に受けた相続登記の急ぎ案件にかかりきりで、日曜の夜も調査と下書き。気づけば休みが終わっていた。若い頃は多少無理しても回復したけど、45にもなると体がついてこない。最近は目の疲れもひどくて、書類を読むだけで頭が痛くなる。月曜の朝、疲れた顔の自分が鏡に映って、「このままでいいのか?」とまた問いが浮かぶ。
今日もまた同じ仕事の繰り返しかとため息
朝のルーチンはもう何年も変わらない。メールチェック、登記情報の確認、依頼人との電話。事務員さんが入ってくれて多少助かっているけど、それでも根本的な単調さは拭えない。別に不満があるわけじゃない。安定してるし、生活も困ってはいない。それでも、何かが足りない気がしてしまうのだ。たとえば「達成感」とか「感謝の実感」とか、昔はもう少し感じていた気がするのだけれど。
スマホを見ると依頼の通知に気が重くなる
通知が鳴るたび、無意識に心がざわつく。内容を見る前から「また急ぎの案件か」と身構えてしまう自分がいる。そんなつもりじゃなかった。依頼があるのはありがたいことなのに、なぜか気が重くなる。この感覚はきっと、仕事に喜びよりも「こなさなければ」という義務感が勝ってしまっている証拠だ。人の役に立ちたいという初心が、通知の数に押し潰されてしまった気がして、少しだけ情けなくなる。
コーヒー一杯で気持ちが切り替えられない日もある
事務所のポットで淹れたコーヒーを飲みながら、深呼吸してみるけど、なかなか頭がスッキリしない。昔はコーヒーを飲めば気分が変わった。なのに今は、ただ眠気を誤魔化しているだけに感じてしまう。そんな些細な変化すら、日常に対する違和感を増幅させる。もしかしたら、自分が小さなサインを見逃さないようになっただけなのかもしれないけど、それすらも少し疲れる。
誰かのために働いているはずなのに空虚になる瞬間
誰かの役に立ちたい。そんな思いで始めた仕事だった。相続や売買、企業の設立手続きなど、人生の節目に関わる責任ある仕事だと思っている。でも、手続きがスムーズにいくほどに、こちらの存在感は希薄になる。トラブルがなければ誰からも何も言われない。スムーズであることが評価なのだとわかっていても、どこか心が満たされないのは、きっと人間としての寂しさなのだろう。
ありがとうが聞きたくてこの仕事を始めた
新人の頃、手続きが完了したあと「本当に助かりました」と言われると、体の奥から力が湧いてきた。書類の苦労も吹き飛んだ。けれど、慣れてくるにつれ、そうした言葉に出会う機会は減った。たいていの依頼者は、結果が出ればそれで満足する。自分も、いつの間にかその反応に慣れてしまっていた。あの「ありがとう」を聞きたくて頑張っていたのに、今はただの一手続きの歯車になったような気分だ。
でも最近は書類にしか向き合っていない気がする
登記識別情報、評価証明、印鑑証明、住民票。毎日がこの書類たちの山との格闘だ。依頼者の顔を見ず、書類にだけ向き合う時間が増えている。特にオンライン申請が当たり前になってからは、対面でのやりとりが減り、「誰の手続きをしているのか」が見えにくくなった。手続きがスマートになる一方で、人の温度が遠のいていく感覚がある。
お客さんの顔より締切と申請のことで頭がいっぱい
今日も、明日も、法務局の締切が最優先。午前中に済ませないと受け付けられない。そんなタイムリミットに追われて、依頼人との会話もつい短くなってしまう。相手の事情をじっくり聞いて寄り添いたいと思っているのに、「急ぎですか?」が口ぐせになってしまっている。いつのまにか「気遣い」よりも「効率」を優先するようになった自分に、時々がっかりする。
感謝よりクレームに敏感になってしまった自分が嫌
「書類がまだですか?」「前より時間かかってませんか?」そんな言葉があると、心が刺さる。以前なら流せていたことも、今は一つひとつが重く感じる。ありがとうを求めるよりも、クレームを避けるために動いているような気がして、それがまた自分を苦しくさせる。守りに入っているというか、ビクビクしている自分がなんだか情けない。プロであるはずなのに。
それでも明日はやってくる
どれだけ悩んでも、どれだけ投げ出したくなっても、朝はまたやってくる。そして目の前には依頼があり、相談があり、やらなければならない書類がある。そうやってまた一日が始まり、一日が終わっていく。その繰り返しの中に、たまに小さな光が差し込むこともある。誰かの「ありがとう」や、事務員さんの気遣いが、ふっと心を救ってくれる。だから、もう少しだけ頑張ってみようと思うのだ。