おひとりですかと聞かれるたび胸がチクリと痛む
一人でいることは好きなのに傷つく理由
誰にも気を遣わず、黙ってごはんを食べられる。そんな時間が、実は一番落ち着く。司法書士という職業柄、日中は気を張りっぱなしで、誰かの人生や財産に関わる書類を前に集中している。だからこそ、昼休みや帰りにふらっと寄る定食屋やラーメン屋は、私にとって静かな癒しの場所だ。だが、そこでかけられる一言が、心に刺さるときがある。「おひとりですか？」。ほんの一言。でも、なぜだか胸がチクリと痛む。誰かといるべきだと無言で突きつけられたような気がして、気まずい笑顔を返すことしかできない。
誰にも迷惑をかけずに生きているのに
私は一人で生きることに、それなりの覚悟を持っているつもりだ。自分の生活は自分で守る。家族もいないし、誰かに依存することもない。もちろん楽なことばかりではないが、人に迷惑をかけることなく、真面目に働いているだけなのに、「おひとりですか？」の一言がまるで欠けているかのように響く。何かが足りない、そう言われているような感覚になるのだ。自分の選択に後ろめたさはないはずなのに、不意に突かれると、自信がぐらつく。
ひとりで来たことが悪いことみたいな空気
ファミレスや居酒屋で案内を受けるとき、ほんの少しの間があることがある。「あ、ひとりですか？」と聞かれるまでの一瞬の沈黙。その沈黙が、なぜか「普通は複数人だよね？」という空気を運んでくるように感じる。私自身が過敏になっているだけかもしれない。でも、その小さな間が、妙に重くのしかかる。誰かと来なければならない場所に、間違って足を踏み入れてしまったような錯覚に陥るのだ。
あの店員さんに悪気はないと分かっているけれど
店員さんが悪いわけじゃない。それは分かっている。マニュアル通りの対応だし、気さくに話しかけようとしてくれているだけかもしれない。でも、相手に悪意がなくても、こちらの心に引っかかることはある。優しさであっても、それが心に突き刺さるときがある。優しさほど怖いものはない。自分の弱い部分にふれる言葉は、時に刃物よりも鋭い。
おひとりさまの文化はあるのに現場はそうでもない
テレビや雑誌では「おひとりさま」が持てはやされる。ソロ活、ぼっち飯、ひとり旅。時代は変わったのだと、一人でいることが当たり前のように見える。でも、実際の現場ではどうか。飲食店やレジャー施設では、まだまだ「お一人ですか？」という前提で会話が始まる。形式としては受け入れられても、心の底から一人を祝福する雰囲気には程遠い。
孤独に慣れた自分にも効く一言
一人の生活に慣れているし、それなりに楽しんでもいる。それでも、孤独に完全に耐性があるわけじゃない。例えば、休日のショッピングモールで「ご家族へのプレゼントですか？」と聞かれたり、「ご夫婦でのご利用が多いですよ」と説明されたとき。そういった言葉が不意打ちのように飛んでくると、心の奥がチクリとする。どれだけ慣れていても、刺さる言葉はあるのだ。
一人用の席に案内されるたびに思うこと
ラーメン屋や牛丼チェーンのカウンター席、一人鍋専用の席、そういった一人客向けの空間には救われる。でも、反面「あなたはここ」と分けられてしまったような寂しさもある。周囲は家族連れやカップルばかりで、ワイワイ楽しそうな雰囲気。その中で、一人分の小さなスペースに案内されると、なんだか自分が社会の端っこにいるような錯覚に陥る。
仕事では孤独でも結果が求められる
私のような司法書士は、基本的に一人で動く仕事だ。事務員はいても、責任の重さは全部自分が背負う。決済ミス一つで信頼が崩れる世界だ。そんな中で、誰にも相談できず、静かにプレッシャーを受け止めている人間にとって、プライベートまで「お一人ですか？」と問われると、逃げ場がないような気持ちになる。
事務員はいても責任は全部自分
うちの事務員はよく頑張ってくれている。ただ、当然だが最終判断は私にしかできない。書類の最終チェック、押印、依頼人との連絡、すべての最終ラインは私だ。だから「それ、誰かに頼んだら？」なんて言われても、簡単には任せられない。もし間違いがあったら、責任を取るのは自分だからだ。そうやって、何でも背負い込んでしまう癖がついてしまった。
相談も愚痴も気軽にはこぼせない
気軽に話せる相手がいたら、どれだけ楽になるだろうかと思うことはある。でも、仕事の話を他人にしていいのか、守秘義務のこともあるし、何より自分の弱さを見せるのが怖い。だからこそ、一人で抱え込む。そして、夜にラーメン屋で「おひとりですか？」と聞かれて、心のどこかがそっと泣いている。
誰かに任せる怖さと自分で抱える癖
本当はもっと任せたほうがいい。そんなことは頭では分かっている。でも、一度痛い思いをしたことがあると、つい自分で全部やろうとしてしまう。若い頃、登記で大きなミスをしかけたときの恐怖が今でも忘れられない。それ以来、何でも自分でチェックしないと落ち着かない。結果、今日もまた一人で遅くまで事務所に残る。
成績や成果ではなくひっそり支えてるのに
この仕事は目立つことが少ない。華やかでもないし、評価されることも多くない。だけど、誰かの人生の節目には必ず関わっている。登記、相続、会社設立。影で支えているだけに、感謝の言葉もほとんどない。そんな日々が続くと、存在そのものが透明になったような気さえしてくる。せめて「今日も一人でよく頑張ってますね」と、誰かに声をかけてもらえたらと思う。
評価されない仕事にこそ時間がかかる
提出期限ギリギリで依頼される書類、どこから手をつければいいか分からない遺産分割協議書、そういった「割に合わない」仕事ほど、時間も神経も使う。それでも断れないのが性分だ。だから、自分の時間はどんどん削られていく。それを誰も見ていない。見られていない努力ほど、つらいものはない。
忙しいのに誰にも気づかれない現実
「暇そうでいいですね」と言われたことがある。心の底から「ふざけるな」と思った。でも、表情では笑って受け流す。一人でやっているからこそ、忙しそうに見えないのかもしれない。でも、忙しさとは他人に見せるものではなく、自分で耐えるものだと分かっている。今日もまた、そんな見えない戦いをしている。
