今日も書類とだけ会話した

今日も書類とだけ会話した

今日も書類とだけ会話した

司法書士の仕事は会話よりも記録との対話が多い

この仕事に就いてからというもの、気づけば「声」を出さない日が増えた。パソコンのキーボードを叩く音と、時折プリンターから吐き出される紙の音だけが、静まり返った事務所に鳴り響く。依頼人が来るまでは事務員と軽い会話を交わす程度だが、それ以外はほぼ無音の時間だ。法律に基づき淡々と処理を進める書類の山、それをひとつずつ片づける作業は、まるで記録とだけ会話しているような気分になる。人と会う仕事のはずなのに、日常に“会話”がない。そこに寂しさを覚えることもあるが、これが司法書士という仕事の現実だ。

音のない事務所で響くのはキーボードの音だけ

昔、野球部の部室はいつも騒がしかった。グローブの音、笑い声、怒号。それに比べて、今の職場は静かすぎる。朝、事務所に入ってパソコンの電源を入れる音から始まり、夕方には書類の整理で紙が擦れる音だけが耳に残る。ふと手を止めて辺りを見回すと、誰もしゃべっていない。事務員さんは几帳面でまじめだが、おしゃべり好きではないので、雑談も控えめだ。正直、この静寂は時々こたえる。仕事としては効率的かもしれないが、孤独が音になって聞こえるような気がしてくる。

一人きりで完結する業務の静けさが身に染みる

司法書士の仕事は、極端にいえば「自分だけで完結できる仕事」だ。相談の受付から書類の作成、申請、記録、すべてを一人で行える。だからこそ、自分のミスはすべて自分の責任だし、達成感も自分の中でしか感じられない。時折、「これは本当に自分がやるべきことだったのか?」と、誰かに確認したくなるが、そういうときほど誰もいない。この静けさが、成功の裏にある不安を増幅させるのだ。

電話の鳴らない日ほど、心が少し沈む

一日中、電話が一度も鳴らない日がある。かつては「電話が鳴らない=仕事が片付く」と思っていたが、今は違う。電話が鳴らない=誰からも必要とされていない、という感覚に変わってきた。もちろん実際は違うとわかっているのだが、それでも事務所に自分ひとりきりで過ごす午後は、ちょっとした不安と寂しさがつきまとう。こんなときは、思わずスマホを見て、誰かからのLINEを期待してしまう自分がいる。

会話するより黙って処理することが求められる仕事

司法書士に求められるのは、話す能力よりも正確に処理する力だ。感情を挟まず、誤字脱字を排し、期限を守って申請を完了させる。だからこそ、コミュニケーションの余地が入り込む隙間は狭い。誰かと相談しながら進める仕事ではなく、自分の判断と責任で淡々と進める仕事が大半だ。雑談の多かった前職が懐かしくなる瞬間もある。ここでは会話は「余計なもの」として扱われがちで、それが一層の孤独を呼び込む。

感情より正確性が優先される日常の中で

たとえば登記の間違いは命取りになる。ミスは即トラブルになるため、注意深く、慎重に作業することが求められる。それゆえ、仕事中に「疲れた」「眠い」といった感情すら押し殺すクセがついてしまった。感情を出さないのが当たり前になって、逆に感情をどう扱えばいいのか、わからなくなるときがある。ひとりの人間であるはずなのに、ロボットのような自分に気づくと、心の奥で「これでいいのか」と問いかける声が聞こえる。

感情を載せる場所がどこにもない

時には感動した話を聞いたり、誰かの悩みに心を寄せたりしたいのに、この仕事ではそれを共有する場がない。感情を出せば「非効率」と思われかねないし、実際に感情を込めたやりとりは、手間になると感じられることもある。だから私は、だんだんと自分の感情を置き去りにするようになった。元々、人と関わるのが好きだったはずなのに、いまや「話す力」が退化している気がして怖くなる。

事務員さんはいるけど、孤独は消えない

事務所には事務員さんがいてくれる。彼女がいるおかげで、日々の業務はだいぶ助かっているし、雑談だってゼロではない。でも、それでも「一人」という感覚が拭えない。立場の違い、責任の違い、そして気の使い方の違い。そうした見えない壁があるせいで、本音を話すのはなかなか難しい。やっぱり、同じ目線で「わかるよ」と言ってくれる相手がいないのは、心細い。

雑談するにも気を使いすぎる自分がいる

事務員さんとの会話は、どこか緊張する。軽い話題を振っても、相手の表情が読めないと、「つまらなかったかな?」「迷惑だったかな?」と気になってしまう。昔から女性との距離感がうまくつかめないタイプではあったけど、年を重ねるごとに、ますます自信がなくなってきた。だから結局、雑談を避けて業務的な会話だけで終わる。するとさらに距離ができて、ますますしゃべらなくなるという悪循環だ。

気を抜けばただの「重い上司」になってしまいそうで

たとえば「最近どう?」なんて聞こうものなら、「詮索されてる」と思われるんじゃないかと不安になる。優しく話しかけたつもりでも、空気を読み違えたときの空回りが怖い。そうして口数が減っていくと、自分がただの「無愛想な人」に思えてきてしまう。もっと気さくな上司になりたいと思っても、元の性格がブレーキをかける。そして、またひとつ「話しかけない理由」が増えてしまう。

優しく接してもらうと逆に落ち着かない

ごくたまに、「先生、疲れてませんか?」と気遣ってもらうことがある。でも、そういうときに限って妙に緊張してしまう。優しくされることに慣れていないのだ。相手は何気なく声をかけてくれただけなのに、過剰に反応してしまって、ぎこちない返事しかできない。そして後で「あの返しは変じゃなかったか?」と悶々とする。寂しがりで、人とのつながりを求めているのに、人と関わるのが苦手という、やっかいな性格だとつくづく思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓