目を覚ました担保権の告白

目を覚ました担保権の告白

夜の一通のFAXから始まった

残業も終わり、ようやく椅子にもたれて缶コーヒーを開けた矢先だった。事務所のFAXが静かに唸り始めたのだ。

送信元は不明。ただ記されていたのは、古びた担保権に関する登記簿の写しだった。

こんな時間に、誰が、何のために――嫌な予感が背中を這った。

担保権抹消の依頼人

翌朝、事務所に現れたのは、地元では知られた古道具屋の老主人だった。

「こりゃあ、わしの持ち物じゃない。なのに担保権が残っとるんじゃ」

書類を見ると、昭和の終わり頃に設定されたまま、ずっと放置されていたようだった。

調査のはじまり

やれやれ、、、また厄介な仕事だ。だが、どこか引っかかる。

この担保権者の住所――どこかで見覚えがあるような。

サトウさんが静かにPCを打ち、数分で現在の所有者情報を洗い出していた。

廃業した金融業者の影

その担保権者は、既に廃業している小規模金融業者だった。

代表者は行方知れず、破産記録もない。謄本にも抹消の痕跡がない。

「でも、先生。これ、登記識別情報じゃなくて鍵付きファイルが添付されてました」

封印されたパスワード

FAXの裏面には、パスワードのヒントらしき手書きのメモ。

「三毛猫」「三月三日」「記念日」――そんな断片的な単語が並んでいた。

「サザエさんのタマでも飼ってたのかよ」とつぶやきながら、試す。

開かれたファイルの中身

中に入っていたのは、委任状と辞任届のPDF。しかも全ての印影が揃っていた。

まるで誰かが、今のこの瞬間に抹消登記を望んでいるような完璧さだった。

「これ、日付が昨日ですね。つまり誰かが意図的に動かしてます」

廃屋の裏口で

登記簿に記されていた担保権者の旧住所を訪ねた。

そこは崩れかけた民家。だが裏手の郵便受けに、最近の投函物があった。

誰かがまだ出入りしている。そう直感した。

現れた影の男

「その登記は、あいつのために残しておいたんだ」

現れたのは、40代の男。元金融業者の息子だった。

父が死ぬ前に託したUSBを持って現れ、登記を終わらせてほしいと告げた。

担保権抹消の真相

USBの中には、完璧な抹消書類が整えられていた。

父が、長年取引した人々に迷惑をかけぬようにと残した、最後の仕事だった。

眠っていた担保権は、ようやく成仏する準備を整えていたのだ。

サトウさんのひとこと

「あんなに嫌がってたくせに、やるときはやるんですね」

塩対応ながら、その言葉はほんの少しだけ温かかった。

やれやれ、、、また一つ、成仏案件だ。

エピローグ FAXの送り主

最後にわかったことがある。

FAXの送り主は、件の男だった。だが、送り先はうちの事務所ではなかったらしい。

「うっかり者は、こういうときに役に立つんですよ、先生」サトウさんはそう言って、コーヒーを差し出してくれた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓