鍵と表札ともう一人の住人

鍵と表札ともう一人の住人

鍵と表札ともう一人の住人

ある日突然変わっていた表札

午前中の書類整理が終わったころ、一本の電話が鳴った。 「表札が変えられてるんです。住んでるのは私なのに……」 依頼人の声は震えていた。だが、声の裏にある妙な確信が引っかかった。

依頼人の説明に感じた違和感

現地に赴くと、表札には見知らぬ名字が掲げられていた。 「この家、数年前の離婚で正式に譲り受けたんです」 依頼人はそう主張したが、その割には鍵を開ける手がやけにおぼつかない。

サトウさんの冷静な一言

「鍵の扱いが素人ですね」サトウさんがボソリと呟いた。 彼女の鋭い観察眼に、またしても助けられる。 だがその言葉に依頼人は露骨に肩を震わせ、言い訳がちに視線を逸らした。

住民票と登記簿にある微妙なズレ

事務所に戻って、速やかに住民票と登記簿を照会した。 不思議なことに、登記名義は依頼人だが、住民票は数カ月前から別人に変わっていた。 これは偶然ではない。誰かが明確な意図をもって行動している。

家の鍵は誰のものか

「鍵を変えられたのは私の方なんです」 依頼人の言葉は、まるで言い訳のようだった。 だが、鍵の形状と交換履歴から、変更したのは“表札の名前の人物”だったと判明する。

元配偶者の登場で揺れる証言

元配偶者を訪ねると、驚くほどすんなり会えた。 「あの人、あの家ずっと放置してたじゃないですか。私が掃除も光熱費も全部」 その言葉には一理あるが、法的には彼女に住む資格はなかった。

表札を変えたのは誰か

防犯カメラの映像が決定的だった。 夜な夜な、元配偶者が表札を付け替えていたのだ。 しかも工具を使い慣れている様子で、まるで怪盗キッドのように鮮やかだった。

夜中の訪問者と玄関前の騒動

調査中の深夜、元配偶者が再び家の前に現れた。 今度は荷物を運び込もうとしていた。依頼人と鉢合わせ、言い争いになる。 「ここは私の家よ!」――だがそれは、法の上では通用しない。

サザエさんのエンディングのような日常崩壊

表札を変えただけで居場所が変わるなら、 それはもうサザエさんの家のような温かさとは無縁だ。 波平が玄関で「誰の名前じゃこれは」と怒鳴る姿が頭をよぎる。

「住んでいる者」が一人とは限らない

結局、依頼人はその家を売ることにした。 「誰かのために残しておくほど、私の人生は暇じゃないです」 サトウさんが「それ、誰の人生にも言えますよ」と冷たく言ったのが印象的だった。

やれやれ、、、名義変更が一番のトラブルかもしれない

表札一つでこんなに面倒になるとは、予想外だった。 やれやれ、、、司法書士なんて職業は、トラブルの温床と紙一重だ。 書類が整えばすべてが解決、なんて幻想だとつくづく思い知らされる。

本当の住人を見極める司法書士の視点

「名前が書いてあるからって、その人のものとは限らない」 書面に現れない心の持ち主を、見抜く力が必要だと感じた。 そう、司法書士は紙の外側も見なければいけない。

隠された同居人の正体

あとでわかったことだが、元配偶者は新しい恋人と同居していた。 だからこそ必死だったのだ。住む資格のない場所で、新しい生活を始めようとしていた。 その恋人がこっそり表札を変えた“もう一人の住人”だった。

なぜ表札が必要以上に強調されていたのか

表札は、ただの名前の札じゃない。居場所を宣言する旗だ。 その旗が誰かに奪われたとき、人はなすすべをなくす。 それを逆手にとって、関係者は家という小さな王国を乗っ取ろうとしたのだ。

登記と現実の狭間に潜む罠

紙の上の事実と、現場で起きている現実は、必ずしも一致しない。 そのズレを利用する者がいる限り、我々の仕事は終わらない。 やっぱり、今日も事務所にはトラブルがやってくる。

書類に書かれない「誰か」の存在

あの家には、名義にも住民票にも載らない“誰か”がいた。 その存在を、見逃してはいけない。 司法書士の仕事は、書類だけじゃないと、また一つ、身に染みた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓