帳簿のなかの亡霊
旧家からの依頼と一通の謎の証明書
ある雨の午後、電話が鳴った。受話器越しの声は年配の女性で、代々続く旧家の者だという。彼女の言うには、「登記事項証明書が一通、どこにも見つからない」とのことだった。再発行もできず、記録もないという。
消された登記事項証明書の正体
依頼を受け、古びた家屋に足を運ぶ。和箪笥から出てきた書類の束に、奇妙な切れ目があった。1筆だけ抜けているのだ。それはまるで、サザエさんのエンディングでカツオが消しゴムでいたずらされたような、不自然な「間」だった。
戸籍の辿る影と相続人の失踪
戸籍を遡ると、一人の男性の名前が浮かび上がった。だがその人物は、登記簿にも住民票にも存在していない。相続人であるはずの彼は、まるで最初からいなかったかのように記録から消えていた。
僕とサトウさんの足で稼ぐ調査
いつも通り、サトウさんに資料整理を任せて僕は市役所や法務局を歩き回る。途中で雨に濡れて靴がぐしょぐしょになった。サトウさんに「予備の靴くらい常備したらどうです?」と冷たく言われたが、それもいつものことだ。
区役所の倉庫で見つかった古い写し
古文書整理の名目で立ち入った区役所の倉庫。埃まみれのキャビネットの中から、コピー機で写したような一枚の登記事項証明書の写しが出てきた。それには、消えた人物の名が、しっかりと印字されていた。
不一致な筆跡と封印された記録
写しの筆跡と他の記録を照合すると、一部の文字だけ不自然に異なっていた。まるで誰かが筆跡を真似て作ったような、妙な違和感。それは、怪盗キッドが変装を解く直前のあの“ズレ”に似ていた。
土地にまつわる過去の事件との接点
さらに調査を進めると、その土地は戦後すぐに一度、闇取引に使われたことがあるという記録が出てきた。登記が曖昧な時代、土地は一時的に架空名義にされていた可能性が浮かび上がる。
名義変更の空白と一人の男の存在
その空白の中に、“ミヤコシ”という男の名が浮かんだ。彼は実在したが、その後忽然と姿を消し、行方は知れない。だが、その男が消えた日付と、証明書の記録抹消日が一致していた。
サトウさんの一言と図面の謎解き
「ここの筆界、変ですね」とサトウさんが言った。図面をよく見ると、境界線がかすかに二重になっている。あきらかに後から誰かが訂正した跡がある。その訂正こそが、誰かが“亡霊”を封印した証だった。
法務局の奥にあった真実
法務局の資料室で、さらに深く掘り下げた。ようやく見つけた紙一枚。そこには、「登記補正」とだけ書かれ、補正対象が空欄のままだった。つまり、それが“消された”ということの証明だったのだ。
消されたのは登記ではなく記憶
最終的にわかったのは、記録を消したのではなく、「誰もその存在を覚えていないように操作された」ことだった。まるで、世の中からその人間の痕跡だけをそっと消すように。
登記簿の幽霊に別れを告げて
依頼者には、残っていた記録の写しと、事実関係を報告した。「うちの父、そんなことしてたのね…」と目を伏せた女性の声は、まるで供養の読経のようだった。
サトウさんの皮肉と僕の反省
「で、また雨に降られたんですね」とサトウさん。僕は黙ってタオルを頭に乗せるだけだった。彼女の手には、熱い缶コーヒーが二本。やっぱりこの人、根は優しいのだと思う。
やれやれ、、、この仕事は墓掘りだな
椅子にもたれて天井を見上げる。紙一枚の裏に、どれだけの人間関係と過去が詰まっていることか。やれやれ、、、この仕事、やっぱり性に合ってるのかもしれない。
書類に埋もれた正義を拾い上げる
登記簿に正義は書かれていない。ただ、誰かの人生が残されている。それを読み解くことが、僕の仕事だ。
明日もまた、帳簿のなかに潜るだけ
翌朝、ファイルの山がデスクに積まれていた。サトウさんはもう来ていたようだ。仕方ない、今日もまた、紙と記憶の迷路を歩くとしよう。