登記記録の裏側で

登記記録の裏側で

登記所の地下に呼ばれて

雨の降る火曜日、午前11時。区役所の法務局分室から「至急確認してほしい登記簿がある」との連絡が入った。 朝から相続登記の相談が二件、電話も鳴りやまず、ただでさえ気が滅入っていたところにこれだ。 「やれやれ、、、こんな日に限って」と、ぼやきながらコートを羽織り、傘を手に取った。

倉庫奥の古い鉄扉

案内されたのは、普段は立入禁止の記録保管庫の奥。そのさらに奥に、塗装の剥げた鉄製の扉があった。 まるでサザエさんの波平の書斎のように、どこか時代に取り残された空間に見えた。 扉の向こうには、薄暗い階段が地下へと続いていた。

忘れられた閲覧申請

職員によれば、最近「昭和二十八年の地番に関する謄本を見たい」という申請があったのだという。 だが、そのような資料は通常の棚には見当たらず、検索にも引っかからない。 「地下の旧記録室にあるかもしれません」と、ひとりの老職員が思い出したように言った。

眠っていた土地台帳

地下室の空気は湿っており、書類独特のカビと紙の匂いが鼻を突いた。 棚には黄ばんだファイルがずらりと並び、分類番号も古めかしいものばかり。 その中に、目的の地番の「土地台帳原簿」が見つかった。

昭和二十八年の地番変更

開いてみると、その地番は昭和二十八年に合併処理されたことになっていた。 しかし、現在の登記情報とは一致していない。つまり、正式な処理がされていない可能性がある。 こういったズレが原因で所有権争いが起きるのは、実務では“あるある”だ。

謄本に書かれた見慣れぬ印影

更に気になったのは、書類の右下に押された印影だった。 今の法務局で使われている印と形が違う。昔の登記官のものかと思ったが、妙に新しい。 サトウさんがスマホで撮影しながら「偽造っぽいですね」とぽつり。

サトウさんの冷たい推理

事務所に戻るなり、サトウさんが静かに言った。「あの印影、平成十年に廃止された様式ですよ」 彼女は過去の登記様式をまとめた自作の資料を持っているという、どこか怪盗キッドのような用意周到さだ。 「となると誰かが意図的に偽造した?」と聞くと、「ですね、たぶん素人じゃないです」と冷静に返された。

「変ですねこの筆跡」

さらに比較してみると、筆跡も不自然に整っている。 「筆圧が一定で、まるでプリントしたみたい」とサトウさん。 書類の余白に手描きで加筆された風を装っているが、内容も不自然に整合性が取れていた。

旧記録の保存方法に疑義

本来ならば、保存文書には定期的に確認が入るはずだ。 しかしこの地下室は誰も近づかず、保管台帳も電子化されていなかった。 不正をするなら、ここは格好の舞台だった。

やれやれ、、、また厄介ごと

登記情報のズレと偽造印影。これが偶然なら、私はプロ失格だ。 「やれやれ、、、また変な話に巻き込まれちまった」 ため息をつきながら、私は法務局の登記官OB名簿をめくっていた。

区画整理と消えた登記官

調べを進めるうち、ある元登記官が平成十年に突然退職していたことがわかった。 その人物が過去に担当していた地域こそ、今回の地番だった。 「何かしら知ってるでしょうね」とサトウさんが淡々と言った。

夜の登記所で聞こえた音

再び夜の登記所に足を運んだ。地下の鉄扉は鍵が変わっていた。 だが、どこかで物音がする。ガタン、という棚の崩れる音。 人影はなかったが、誰かが何かを隠そうとした形跡が残っていた。

真実は地下に沈んでいた

後日、再調査の結果、その旧地番には二重の所有者申請が出されていたことが判明した。 その一方は無効だったが、記録上は“存在することになっている土地”として残っていた。 それを利用して、不動産を騙し取ろうとする計画が進んでいたのだ。

地階封鎖の理由

封鎖された理由は、職員の過失ではなかった。 不審を感じたある登記官が、外部の介入を防ぐために鍵を変えていたのだ。 だが、その後の手続きがなされず、封印のままになっていた。

登記官の遺した覚書

地下の一冊のファイルの裏に、その登記官が記したメモが残されていた。 「この記録は誰にも渡すな。偽造が入り込んでいる」—— 私はその手書き文字を見つめ、どこかで名探偵コナンの阿笠博士の声が頭に響いた気がした。

事件の記録と心の整理

すべては報告書にまとめ、関係者に通知された。 私はその書類に捺印しながら、そっと深く息を吐いた。 「やれやれ、、、司法書士って、地味だけど意外と事件に巻き込まれるもんだな」

明かされた二重登記のトリック

この件は地元紙に小さく載った程度だった。 だが、関係者にとっては大きなトラブルの火種だったに違いない。 登記の裏側には、時として人の欲と過去が眠っている。

「サトウさん、今夜は飯でも、、、」「無理です」

達成感と空腹に耐えかねて、私は何気なく誘ってみた。 「サトウさん、今日はお疲れ様。飯でも、、、」 彼女はパソコンから目も離さず、「無理です」とだけ言った。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓