登記簿が知っていた真実

登記簿が知っていた真実

登記簿が知っていた真実

朝一番の依頼人

朝の9時ちょうど、玄関のチャイムが鳴った。 コーヒーにミルクを入れて、さて一口というタイミングだった。 現れたのは、黒のパンツスーツに身を包んだ若い女性。目が据わっていた。

「彼の名前を調べてほしいんです」

開口一番、彼女はそう言った。戸籍でも住民票でもない、登記簿の中にある「彼の名前」を。 「正確には、かつて彼が所有していたはずの物件があるんです。でも、私が探しても見つからないんです」 別れた恋人の消息を、登記簿から辿ろうとするのは珍しい話ではないが、表情には何か切羽詰まったものがあった。

住所と恋人の関係

「この住所に、彼が住んでいたのは確かなんです。郵便物も来ていたし、私は一度、そこに泊まったこともある」 その物件を特定できれば、名義人を追える。そう思い、法務局の閲覧端末で調査を始める。 だが、現在の登記簿にも、履歴にも、彼女の言う名前は出てこなかった。

サトウさんの鋭い一言

「それ、転貸じゃないですか?あるいは持ち主に隠して住んでたとか」 後ろで書類を整理していたサトウさんが、さらっと言い放つ。 彼女は興味なさそうに見えるが、地味に鋭い。まるで名探偵コナンの灰原哀だ。

一筆書かれた謎の所有権移転

古い所有権移転登記に、気になる附属書類の記録が残っていた。 「私道の持分放棄」とあるが、妙に中途半端な日付と、当事者の名前が片方だけ不鮮明だ。 何かを隠すように、わざと書かれたような筆跡。そこに何かがある。

過去の登記簿に浮かび上がる別名

閉架の登記簿謄本を取り寄せると、10年前の名義に別の名前が現れた。 名字は違うが、名前と生年月日が一致。依頼者が教えてくれた恋人のプロフィールと完全に一致していた。 「彼、名字を変えてたんですね……」彼女の声が震えていた。

シンドウの推理ミスとコーヒーの染み

僕はつい、まるでサザエさんの波平のように「そもそも女の勘は当てにならん」などとつぶやいた。 しかし事務机のコーヒー染みを見ていたサトウさんが呟く。「シンドウさん、男の直感も信用なりませんよ」 図星だった。やれやれ、、、と内心で舌を巻いた。

サザエさんも顔負けの人間模様

男は名字を変えていた。理由は家庭の事情らしい。 依頼者との関係を断つために、名字を変えて所在も変えていた。 だが、登記簿は彼の「居た証拠」を確かに残していた。磯野家もびっくりの家庭内ゴタゴタだ。

裁判所文書で見つかった意外な証拠

法務局で登記簿と一緒に閲覧できる仮処分記録に、一通の供託通知が残っていた。 そこに添付された住民票には、見覚えのある「本名」が。 彼は実家の借金を整理するため、名義を変えていたのだった。

「やれやれ、、、またか」とシンドウはつぶやいた

名義の変更、家庭の事情、そして女性との別れ。 登記簿というものは、そうした“人の消しゴムでは消せない痕跡”を持っている。 「恋愛相談じゃないんだよ、こっちは」…やれやれ、、、だ。

真の持ち主は誰だったのか

結局、現在の持ち主は第三者への売却によって完全に他人に渡っていた。 恋人が住んでいた当時の名義も、彼のものではなかった。 ただ、その持ち主は、彼の親族だったことが登記簿から判明する。

恋人の名前が隠されていた理由

「彼、家族にバレないように私と付き合ってたんです」 依頼者のその一言で、全てが腑に落ちた。 名義を変え、履歴も残さずにしたのは、親とのトラブルを避けるための防衛だった。

サトウさんの冷静な指摘

「登記簿は法の鏡です。恋愛の鏡じゃありません」 そう言い切って、レターパックを封じるサトウさん。 その姿はまるで、銭形警部が書類で怪盗ルパンを追い詰めるようだった。

そして、登記簿が語ったもう一つの別れ

結末を伝えると、依頼者は「ありがとう」とだけ言って帰っていった。 その背中に、別の恋人の影があったのかどうかは、僕にはわからない。 ただ、登記簿は、黙って全てを記録し続ける。それだけは確かだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓