スーツを着るたび心がすり減っていく朝に

スーツを着るたび心がすり減っていく朝に

朝のルーティンがもう希望に見えない

目覚ましが鳴って、無意識にスーツに袖を通す。かつてはその行為に一日のスイッチを入れる意味があったが、今ではただの作業になってしまった。歯を磨き、髭を剃り、Yシャツにアイロンをかけて、ネクタイを結ぶ。それを終えて鏡に映った自分を見ても、何の感情も湧いてこない。ただ「今日も同じ一日が始まるのか」とため息が漏れるだけだ。仕事に誇りがないわけじゃない。でも、感情がついてこない朝が増えてきた。誰かと笑い合うでもなく、拍手を浴びるでもなく、黙々と書類と向き合い、登記情報とにらめっこする日々。その一歩を踏み出す服が、このスーツなのだ。

昔はスーツを着ると気が引き締まった

司法書士になりたての頃、スーツは「士業の証」としての誇りだった。学生時代にジャージやユニフォームしか着てこなかった自分が、大人になった実感があったし、「これが自分の戦闘服だ」と本気で思っていた。胸を張って事務所に入り、先輩やクライアントに挨拶するのが楽しかった。もちろん失敗もあったし、理不尽な場面もあったけれど、それすらも成長の糧と捉えていた。あの頃の自分に、今の姿を見せたらどう思うだろうか。「お前、目が死んでるぞ」と言われるかもしれない。それでもスーツを着て、前を向いていたあの頃が懐かしい。

新人の頃のワクワクを思い出せない

毎朝スーツを着ると、思い出すのはワクワクではなく「また今日も何かトラブルが起きるのでは」という不安だ。電話一本で地雷を踏んだような案件が転がり込むこともあるし、役所からの意味不明な戻しもある。かつては「よし、どうにかしてやろう」と燃えていたのに、今は「どうか静かに終わってくれ」と祈っている。スーツは本来、心構えを整えるもののはずなのに、いつの間にか「諦め」の象徴になってしまった。そんな風に感じる自分が情けないが、事実として心が躍ることは少なくなった。

ボタンをかけるたびに心が遠のく

シャツのボタンを一つずつ留めるたびに、自分の気持ちもどこか遠くへ押し込めている気がする。外側は整っていくけれど、内側は空っぽのまま。特に冬の朝、まだ暗い時間帯に無言で身支度をしていると、「なんのために?」という疑問がふと湧く。やらねばならないという義務感だけで動いていることが、自分をどんどん無機質にしていく。昔はボタンのひとつひとつに意味を感じていた。今はただの義務の積み重ね。それがスーツの正体になってしまった。

司法書士という肩書の重さ

肩書だけを見ると、司法書士は「ちゃんとした人」「信頼できる人」と映るのかもしれない。だけど実際には、ギリギリのスケジュールで書類を仕上げ、見えないプレッシャーに追われながら日々を回している。クライアントの「間違いがないようにお願いします」という言葉が重くのしかかる。間違えてはいけない職業。完璧を求められる仕事。その裏で、どれだけ神経をすり減らしているかは、誰も知らない。

世間から見ればちゃんとしてる人

実家に帰れば、親戚は「立派だね」と言ってくれる。同級生からは「資格職で安定してそうだね」と言われる。でも、そんな言葉をかけられるたびに、自分の中の空しさが強くなる。確かに、見た目はちゃんとしている。でも、心の中はいつ崩れてもおかしくないギリギリの綱渡りをしている。スーツ姿の自分は、仮面をかぶった役者のようだ。演じ続けるうちに、素の自分がどんな顔をしていたかすら思い出せない。

だけど本当の自分はボロボロだった

「信頼できる司法書士ですね」と言われることもある。そのたびに「ありがとうございます」と笑顔で返すけれど、内心では「いや、そんなことないですよ」と言いたくなる。たまに鏡を見ると、目の下のクマがひどく、髪も乱れていて、「これが信頼の象徴か?」と自分にツッコミを入れたくなる。スーツを着て、言葉を整えて、笑顔を作って、なんとか保っているだけ。それがバレないように、毎朝必死に整えている。

安定していていいねと言われる苦しさ

「安定してていいね」という言葉が一番苦しい。たしかに会社員のような異動もなく、自分の裁量で働ける。だけど、それはすべて自分の責任ということでもある。何かあったときに守ってくれる会社も上司もいない。自分で責任を取る。それが独立ということだ。そして、その孤独を誰にも共有できないのが、この職業のつらさでもある。「自由」の裏には、誰にも頼れない現実があるのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓