登記簿の中の亡霊
奇妙な古家付き土地の依頼
ある朝、いつもより早く事務所に着くと、既にサトウさんが書類の整理をしていた。 机の上には分厚いファイルと「相談票」と書かれた申込書。依頼内容は「古家付き土地の売却に伴う名義変更」。 一見、ありふれた案件に見えたが、シンドウの背筋には薄ら寒いものが走った。
消えた所有者の痕跡
土地の登記簿を確認してみると、最後の名義人が約10年前に死亡しているはずの人物だった。 依頼主は「父の名義のままだからお願いします」と軽く言ったが、死亡届も、相続登記もされていない。 シンドウは手帳に「名義の空白期間→要確認」とメモを残し、ため息をついた。
サトウさんの冷静な分析
「これは仮登記が二度入ってます。しかも解除の記録がない」とサトウさん。 法務局のデータベースから紙の登記簿まで洗ってくれた。 さすがはサトウさん、地味にスゴい。やれやれ、、、自分はまた足を引っ張る役か。
空き家に響く足音
現地調査に赴くと、古家は見るからに朽ちていた。雨漏り、草むら、傾いた塀。 何より不気味だったのは、室内に置かれた古びたスリッパと、仏壇の水がまだ新しいことだった。 「誰か、住んでたんじゃないですか?」というサトウさんの言葉が現実味を帯びる。
お隣さんが語った噂話
隣家の老婆がポツリと漏らす。「あの家の婆さんね、夜な夜な庭掘ってたのよ、何探してたんだか」。 まるでサザエさんのホラー回のような話だが、登記簿の異常さを考えれば笑えない。 「それでね、ある日急にいなくなったの。家主も、娘も、みんな消えたのよ」。
名義貸しと失踪
調査の結果、古家はかつて暴力団関係者に名義を貸した履歴があることが発覚。 その人物は既に死亡しているが、戸籍には失踪宣告もない。 つまり、土地の所有者は“死んでいるのに生きている”状態だった。
隠された遺言書の存在
シンドウが床下収納の古い箱を開けると、湿気た封筒が出てきた。 中には、達筆で書かれた「自筆証書遺言」。日付は10年以上前、内容は「全財産を孫に譲る」とあった。 だがその孫の名前が――登記簿にあるものと違った。
サトウの一言で動き出す謎
「この遺言、法定相続の形じゃありません。逆に、これが偽造の証拠になり得ます」 サトウさんの指摘で、偽装相続による土地の不正取得の線が浮上。 筆跡鑑定、印鑑照合を経て、名義の真正性が問われることになった。
真犯人は司法の盲点を突いた
登記制度の穴をついて、死亡者名義を意図的に残し、不動産を“幽霊名義”のまま売却しようとした。 過去に仮登記した業者と依頼人がグルであることが判明。 「司法書士を甘く見るなよ」とは言わなかったが、正直ちょっと思った。
古家が語った真実
事件解決後、古家は取り壊されることになった。 瓦礫の下から出てきたのは、小さなアルバムと、鍵のかかった木箱。中には本物の遺言書が。 亡霊ではなく、遺された者たちの沈黙が、家に残っていただけだった。
いつも通りの日常へ
事務所に戻ったシンドウは、冷えたコーヒーを飲みながら「やれやれ、、、」と呟いた。 サトウさんは無言で書類を整理していたが、ふと顔を上げて言った。 「今度こそ、ちゃんと報酬もらってきてくださいね」。――うっかりしていた。