shindo

証言できなかった接吻

証言できなかった接吻 証言できなかった接吻 夏の終わり、空気がまだ熱気を含んでいる朝だった。事務所の扉がぎいと重たく開く音に、僕は溜息交じりに顔を上げた。久しぶりの女性依頼人だったが、その表情には妙な緊張が走っていた。 彼女の口元には、落と...

名前を呼ばれない男

名前を呼ばれない男 相談者は午後三時にやってきた 曇天の中の奇妙な来訪 冷たい霧雨の降る午後、事務所のドアが静かに開いた。背広姿の中年男が、まるで空気に紛れるように入ってきた。名乗りもせず、ただ小さな声で「相談があるんです」とつぶやいた。 ...

偽りの共有者

偽りの共有者 登記簿の違和感から始まった朝 朝一番、まだコーヒーの香りが漂う事務所に届いたのは、一通の相談メールだった。 「共有登記のことでお聞きしたいことがあります」とだけ書かれた短い文面。 添付された登記事項証明書に、俺はふと眉をひそめ...

仮登記が消した涙

仮登記が消した涙 仮登記が消した涙 夏の盛り、午前10時の司法書士事務所には、うだるような暑さとは裏腹な冷気が漂っていた。エアコンの効きが良すぎるのか、それとも隣にいるサトウさんの視線が冷たすぎるのか。事務所のドアが開く音がして、男が一人、...

保存された名前の真実

保存された名前の真実 朝のメールチェックから始まった いつものように朝イチでメールチェックをしていたら、件名だけが空白のメールが一通届いていた。差出人の名前にも見覚えがない。添付ファイルが一つ、無造作に添えられていた。 添付ファイルの拡張子...

焦げ跡に消えた登記簿

焦げ跡に消えた登記簿 焦げ跡に消えた登記簿 奇妙な依頼は一本の電話から始まった 声の主は焦っていた 受話器越しの声は明らかに焦りを帯びていた。内容はこうだ。ある土地の登記簿謄本を取得したところ、端が焼け焦げていて読めない箇所があるという。そ...

登記簿が語る最後の居場所

登記簿が語る最後の居場所 登記簿が語る最後の居場所 朝一番、事務所のドアが開いた音がした。扉の隙間から覗くと、妙に背筋の伸びた年配の女性が一人、こちらを見ていた。開口一番、彼女はこう言った。「亡くなった兄の家について、相談があります」。 相...

赤いコートの遺言

赤いコートの遺言 赤いコートの遺言 雪がちらつくある冬の朝、事務所の扉をノックする音がした。開けると、赤いコートを着た年配の女性が立っていた。強い香水の匂いと、どこか非現実的な雰囲気をまとっていた。 冬の朝の訪問者 女性は名を「高松ヨシエ」...

登記簿に眠る証明

登記簿に眠る証明 依頼人は唐突に その日、午後の事務所にはいつものようにコーヒーの香りとサトウさんの無言の圧が漂っていた。 そんな静けさを破って、ドアが勢いよく開いた。小太りの中年男性が汗を拭いながら名刺を差し出した。 「実家の土地が相続で...

訂正欄の殺意

訂正欄の殺意 訂正欄の殺意 朝からバタバタしていた事務所に、一人の年配の女性が現れた。小さな紙袋を抱えたその姿はどこか寂しげで、しかし目は何かを訴えるように鋭かった。机の上に置かれたのは、しわくちゃになった遺言書の写しと登記申請書だった。 ...

登記簿に消えた所有者

登記簿に消えた所有者 登記簿に消えた所有者 雨の午後に持ち込まれた謎の依頼 梅雨の終わりを告げるような、しとしとと降り続ける雨の午後だった。 ぼんやりと冷めたコーヒーを眺めていたところに、年配の女性が傘をたたみながら事務所に入ってきた。 「...

謄本に消えた証言

謄本に消えた証言 登記簿の中の違和感 朝からどんよりとした空模様。湿った空気と一緒にやってきたのは、一本の登記簿の写しだった。 古い物件の名義変更について相談したいという依頼だったが、ぱらぱらとページをめくっているうちに、俺はある一文に目を...

感情と義務の交差点

感情と義務の交差点 午前九時の訪問者 約束のない来客 事務所のドアが開いたとき、時計はまだ午前九時を少し回ったばかりだった。来客予定はない。いや、正確には「忘れてる可能性もある」と自分に言い訳しながら、俺は椅子からゆっくりと腰を上げた。 ド...

契約書十三枚目の謎

契約書十三枚目の謎 契約書十三枚目の謎 午後一時の来訪者 八月の暑さに辟易していた午後一時、事務所の扉が勢いよく開いた。背広のボタンを外す暇もなく立ち上がったところに、スーツ姿の中年男が足早に入ってきた。「急ぎの相談がありまして」と息を弾ま...

登記簿の中の行方不明者

登記簿の中の行方不明者 登記簿の中の行方不明者 午前八時の依頼人 「これ、ちょっと見ていただけますか」 朝一番に現れた年配の女性が差し出したのは、一通の登記事項証明書だった。 そこには不動産の名義が誰にも引き継がれていない状態で、空白期間が...