封印された区画

封印された区画 封印された区画 梅雨明け間近の蒸し暑い午後。エアコンの効きが悪い事務所で、僕は汗を拭いながら登記簿を眺めていた。 表題部の記載に妙な違和感を覚えたのは、偶然ではなかった。 依頼人の言葉が脳裏に焼き付いていた。「ここの土地、昔...

謄本に滲んだ赤い記憶

謄本に滲んだ赤い記憶 謄本に滲んだ赤い記憶 午前九時の来訪者 血相を変えた依頼人 その朝、僕は書類の山に埋もれながらコーヒーを口に運んでいた。そんな中、事務所のドアが勢いよく開き、男が飛び込んできた。シャツはしわくちゃ、顔色は青ざめており、...

封じられた遺言の行方

封じられた遺言の行方 封じられた遺言の行方 その日、僕の事務所にはいつにも増して湿気がこもっていた。古い資料とともにやってきたのは、地元の建設会社に勤めていたという中年の女性だった。 「父が遺した遺言書が、どうもおかしいんです」――彼女の言...

母の涙と消えた戸籍

母の涙と消えた戸籍 母の涙と消えた戸籍 はじまりは古い農家の電話から 「息子の名前が、戸籍から……消えてるんです」。 受話器の向こう、しわがれた声が泣き崩れる。サトウさんが冷静に対応しながらも、僕に目線を投げた。 ただの記載ミスにしては妙だ...

法務局に現れたもうひとつの顔

法務局に現れたもうひとつの顔 静かな朝の法務局 蝉の鳴き声が響く夏の朝、法務局のロビーはいつものように静かだった。用件を済ませる人々がぽつぽつと並ぶ中、私は登記の手続きを確認するため書類を抱えていた。いつもと変わらぬルーティン――のはずだっ...

封印された余白の言葉

封印された余白の言葉 封印された余白の言葉 地方の司法書士事務所には、時折、恋文が舞い込む。それが真っ当に届くものであれば、多少の心の潤いにもなるだろう。だが今回のように、書類の束に紛れていたとなると話は別だ。 封印された言葉は、時に人を傷...

供託記録に潜む罠

供託記録に潜む罠 供託記録に潜む罠 朝のルーティンと不機嫌な気配 曇天の朝、いつものように事務所の鍵を開けると、サトウさんがすでに机に座っていた。コンビニのコーヒーを片手にパソコンを睨みつける姿は、まるで刑事ドラマの捜査一課。いや、実際のと...

血筋の罠

血筋の罠 相続放棄から始まった違和感 「相続放棄の手続きなんですが……」そう言って事務所にやってきたのは、四十代後半の男性だった。 亡くなった父親の遺産を放棄したいという。理由は「面倒だから」。よくある話だ。 だが、その申述書の内容に、私は...

証人欄に記されなかった名前

証人欄に記されなかった名前 依頼は午後の雨とともに 雨音が事務所の古びたガラスを叩いていた。天気予報では曇りのはずだったが、予報なんて信じたら負けだ。そんなことをぼやきながら、濡れた書類を差し出す依頼人を見つめる。 「証人欄、空白のままでし...

屋根裏の登記簿

屋根裏の登記簿 はじまりは雨漏りから 朝から雨が降っていた。鬱陶しい季節の到来に、私はいつものようにぼやいていた。そんなとき、一本の電話が事務所にかかってきた。 「中古物件の購入に関して登記の相談がしたい」と、少し緊張気味の若い声だった。 ...

識別情報は誰の手に

識別情報は誰の手に 朝一番の不穏な依頼 封筒の中身は登記識別情報通知 役所帰りの途中で立ち寄った事務所のポストには、一通の封筒が差し込まれていた。差出人不明、宛名は手書きで「司法書士シンドウ様」。封を開けると、中には登記識別情報通知書の写し...

紙の下に眠る罪

紙の下に眠る罪 紙の下に眠る罪 不動産売買の依頼に潜む違和感 八月の蒸し暑い午後だった。クーラーの効かない相談室で、年配の男性が差し出した登記関係書類を見たとき、妙な違和感が首筋を撫でた。「父の名義の土地を売却したい」という依頼内容はありふ...

無言電話と識別コードの謎

無言電話と識別コードの謎 朝一番の無言電話 午前8時過ぎ。まだコーヒーも口にしていないうちに、事務所の電話が鳴った。ナンバーディスプレイには非通知。「またか……」と思いながらも受話器を取ったが、返ってきたのは沈黙だった。 「またイタズラです...

登記情報は誰の手に

登記情報は誰の手に 朝一番の来客 朝の事務所にコーヒーの香りが漂う頃、ドアが控えめに開いた。 現れたのは、どこか挙動不審な中年男性。手には封筒を握りしめていた。 「すみません、以前こちらで登記をお願いした○○と申しますが……ちょっとおかしい...

印影が語るもうひとつの真実

印影が語るもうひとつの真実 朝の郵便受けに忍び込んだ違和感 朝の空気は湿っていて、シャツの首元がじっとりと汗ばむ。事務所に着くなり郵便受けを開けたが、その中に妙に分厚い封筒がひとつ混じっていた。差出人は見覚えのある地元の不動産業者。けれど、...