朱肉に浮かぶ真犯人

朱肉に浮かぶ真犯人 朱肉に浮かぶ真犯人 司法書士の朝は早くない 午前九時三十分。世間ではとっくに「おはようございます」の時間帯だが、私はまだコーヒーの香りと共にパソコンの前でぼんやりしていた。 夜更かししたわけでもないが、最近眠りが浅くて困...

最後の意思と最初の嘘

最後の意思と最初の嘘 午前九時の相談者 夏の光がまだ柔らかい午前九時。事務所のドアが控えめに開き、初老の女性がゆっくりと入ってきた。手には古びた封筒を持っており、少し緊張している様子だった。 「遺言と、生前贈与について、ご相談がありまして…...

登記簿が語らない夜

登記簿が語らない夜 登記簿が語らない夜 夜の来訪者と一通の謄本 ある秋の夕暮れ、シャッターを半分閉めかけていた事務所に、スーツの男が滑り込んできた。 顔色は悪く、右手にはくしゃくしゃになった登記事項証明書を握っている。 「この登記、何かおか...

識別情報は知っていた

識別情報は知っていた 朝の一通の電話 盆明けの月曜、鳴り響いた一本の電話が一日を狂わせた。 「登記識別情報が消えたんです」 落ち着いた声だったが、妙な湿り気があった。まるで隠し事をしている人間の声だ。 依頼人は妙に落ち着いた声だった 名前は...

本籍地の影

本籍地の影 事件の発端 平凡な一日が変わる瞬間 シンドウはいつものように、静かな事務所で仕事を始めた。メールの整理をしながら、「やれやれ、、、また今日も平和な一日だ」とつぶやく。しかし、次に届いた一通の手紙が、すべてを変えてしまった。 謎の...

サトウさんは知っていた

サトウさんは知っていた 朝の静寂と塩対応 いつも通りの朝だった。事務所のドアを開けると、パソコンのタイピング音だけが耳に届いた。 「おはよう」と声をかけたが、返事はない。耳が遠くなったわけじゃない。サトウさんは確かに、僕の声を聞いたはずだ。...

靴下の片方は法務局に眠る

靴下の片方は法務局に眠る 靴下の片方は法務局に眠る その朝、僕の事務所に届いた封筒には、なんとも言えない生活感のある臭いがこもっていた。封を開けると中には、片方だけの靴下と短い手紙。 「この土地は私のものです。時効取得の権利があります」 名...

権利書が語る沈黙

権利書が語る沈黙 朝一番の来客と消えた書類 朝9時前、まだ机にコーヒーを置く暇もないうちに、事務所のチャイムが鳴った。 「相続のことで……」と、声を震わせて入ってきたのは70代と思しき女性。 その手には古びた茶封筒が握られていたが、中身は空...

封印された初恋と放棄の書

封印された初恋と放棄の書 相続放棄申述書と一通の手紙 その朝、机の上に置かれていたのは、封筒に入った相続放棄申述書と、もう一通の私信だった。申述書はいつものように法的整合性が取れていたが、添えられた手紙が、妙に胸に引っかかった。差出人は見覚...

裏書の向こうにいた者

裏書の向こうにいた者 奇妙な依頼は一通の封筒から 午前中のコーヒーにありつく前に、机の上にぽつんと置かれた茶封筒に目が留まった。宛名も差出人もなく、ただ「至急」とだけ赤文字で書かれている。まるで探偵もののドラマの導入みたいな演出に、思わず「...

登記簿に眠る復讐者

登記簿に眠る復讐者 登記簿に眠る復讐者 忘れ去られた名義 「先生、この土地の名義変更、ちょっと変ですよ」 朝から事務所に現れた依頼人が差し出したのは、昭和の匂いがする登記簿の写しだった。相続の話かと思いきや、記載された所有者はすでに20年前...

逆さの印影が告げたこと

逆さの印影が告げたこと 朝の事務所に届いた不自然な封筒 押印の向きが気になった朝 蒸し暑い火曜の朝。郵便受けに突っ込まれていた白い封筒が、どうにも気に入らなかった。差出人の名前はあったが、表書きの文字が微妙に右に傾いている。さらに、裏の封に...

完了しなかった登記の罠

完了しなかった登記の罠 午後の電話は不穏の始まりだった 受話器越しの男の声はどこか怯えていた。 「そちらにお願いした登記、まだ完了してないって言われたんですけど……」 唐突なその一言に、頭の中が一瞬真っ白になった。登記申請は済ませたはずだ。...

封筒の中の嘘

封筒の中の嘘 封筒の中の嘘 それは月曜日の朝だった。郵便受けを開けた瞬間、嫌な予感が背中を這い上がった。無地の黒い封筒、差出人の記載なし。シンプルなのに、そこに込められた悪意がやけに重い。 宛名は確かに「司法書士 進藤様」。文字はきれいだが...

名前を捨てたその日から

名前を捨てたその日から 朝の電話はいつも通りではなかった 名乗らない相談者 朝9時すぎ、事務所の電話が鳴った。「改名について相談したい」とだけ言って、男は名乗らなかった。声は抑揚がなく、まるで何かを隠しているかのように感じられた。 司法書士...