後見人は語らない

後見人は語らない 後見人は語らない 朝のコーヒーがぬるく感じる。事務所の窓から見える空は快晴だが、心はどこか曇っている。昨日から気になっていた案件が、今日も重くのしかかっていた。 「未成年後見の相談? 今どき珍しいな……」そう独りごちた時、...

笑う司法書士は謎を知る

笑う司法書士は謎を知る 失踪した笑顔 朝のコーヒーと届かなかった登記申請 その朝も、いつものように私は事務所でインスタントコーヒーをすすっていた。眠気と戦いながらチェックしたメールに、届いているはずの登記申請が見当たらない。不動産の相続登記...

未完の依頼と未了の恋

未完の依頼と未了の恋 司法書士は恋も登記も途中で止まる 朝、デスクに座った瞬間から違和感があった。依頼のメールが珍しく夜中に届いていたのだ。「相続登記の相談です」と書かれたそれは、内容こそ平凡だが、どこか匂う。 忙しい日は嫌いだ。だが、暇な...

登記簿は知っていた

登記簿は知っていた 雨の日に届いた登記簿謄本 午後の雨音がじとじとと窓を叩く中、机の上に一通のレターパックが届いた。 差出人は、地元の司法書士の僕宛に依頼をしてきた女性、飯田ミホとある。 中身は登記簿謄本と一枚のメモ。「これ、何か変じゃない...

登記簿にいない同居人

登記簿にいない同居人 午前九時の訪問者 午前九時ちょうど、まだコーヒーの香りが事務所に漂っている時間帯だった。古びたスーツを着た女性が戸口に立っていた。年齢は三十代後半、表情は疲れ切っている。ドアの前で一瞬躊躇した後、彼女は静かにこう言った...

午後二時の唐揚げは知っていた

午後二時の唐揚げは知っていた 唐揚げ弁当と午後の違和感 暑さが残る秋口の午後二時。事務所の窓を少し開けていたら、どこからか甘辛い匂いが流れてきた。唐揚げ弁当の香りだ。昼食を終えたばかりのはずなのに、空腹中枢が刺激された。 その時、俺の机の上...

消せなかった名前

消せなかった名前 消せなかった名前 登記簿に残された違和感 まだ春が名残惜しそうに枝先にしがみついている朝だった。 書類の山を前に、俺は溜息をつきながら事務所のドアを開けた。 机の上には昨日処理しきれなかった名義変更の申請書が残っている。 ...

通知封筒と三度目の旅支度

通知封筒と三度目の旅支度 朝の封筒と異変の気配 金曜の午前中に届いた一通の補正通知 金曜日の朝、郵便受けにひょっこり顔を出していた封筒には、見覚えのある法務局の角印が押されていた。補正通知。ああ、またか、と心の中で呟く。つい一昨日提出した案...

血統が語る嘘

血統が語る嘘 相続の相談に訪れた兄妹 「母が亡くなりまして、相続の手続きをお願いしたいんです」 落ち着いた様子の弟と、表情の硬い姉が事務所にやってきた。 依頼人シートを埋めながら、違和感が頭をよぎった。二人の名字が違うのだ。 不自然な緊張感...

バスツアー死の登記簿

バスツアー死の登記簿 バスは走る静かに誰かが死ぬ 観光名所と不穏な名簿 山あいの観光地をめぐるバスツアー。地元新聞の懸賞で当選した参加者13名と添乗員が、紅葉の名所を巡る日帰り旅に出発した。 朝から天気は快晴、車内には和やかな空気が流れてい...

謄本に咲いた花と最後の銃声

謄本に咲いた花と最後の銃声 花屋の女性が残した遺言 その日、事務所に届いた一通の封書には、花びらの押し花と一緒に一枚の謄本が入っていた。依頼人の名はなく、差出人欄にも記載はなし。ただ、花屋「カスミ草堂」の名だけが滲んでいた。 差出人がわから...

境界を越えた殺意

境界を越えた殺意 静かな町に不穏な知らせ その町には珍しく、朝からパトカーが静かに集まっていた。町外れの田んぼに隣接する空き地から遺体が発見されたという。誰もが知っている場所だったが、誰の土地なのかは知られていなかった。 「合筆された土地」...

土地台帳は見ていた

土地台帳は見ていた 土地台帳は見ていた 曇天の空の下、古びた木造家屋に足を運んだのは、午後の予定が急にキャンセルになったからだった。司法書士としての嗅覚が「何かある」と騒いでいたのだ。土地台帳の記載に不自然な空白があり、それがずっと気になっ...

登録免許税が消えた日

登録免許税が消えた日 登録免許税が消えた日 暑さと帳簿と未納通知 その日、事務所は朝から蒸し風呂のようだった。古びた扇風機が弱々しく首を振る中、俺は積み上がった登記関係書類の山を前に、カフェインの足りない目で未納通知を眺めていた。 「登録免...

訂正申請は恋のはじまり

訂正申請は恋のはじまり 登記所での小さなミス 午前九時の電話 「もしもし、登記内容に誤りがあるようで……」 そんな一報で僕の月曜は始まった。電話口の声は若く、どこか頼りなげで、それでいて懸命だった。 聞けば、数日前に提出した相続登記に記載ミ...