消された家の登記簿

消された家の登記簿 消された家の登記簿 朝一番の不審な来客 午前9時を5分過ぎた頃だった。事務所のドアが、遠慮がちに開かれた。 入ってきたのは、年のころ七十を越えるだろう女性。杖をつき、分厚いファイルを抱えていた。 「家のことで、ちょっと見...

影が語る最後の言葉

影が語る最後の言葉 書斎に残された封筒 古びた便箋と不自然な一文 父の死後、一通の封筒が書斎の机の中から見つかった。黄ばみ、縁がほつれたその封筒には、達筆な筆跡で「シンドウへ」とだけ書かれていた。封を開けると、中からは便箋一枚と、何かを意味...

封筒の裏の真実

封筒の裏の真実 封筒の裏の真実 朝届いた三通の封筒 司法書士事務所に朝届いた三通の封筒は、どれもどこか不自然だった。差出人はそれぞれ異なり、用途もバラバラ。しかし、一つだけ、どこか粘着力の足りない封筒があったのだ。封が剥がれかけたような、あ...

筆跡が語る遺された真実

筆跡が語る遺された真実 ある朝届いた一通の手紙 机の上に、白い封筒がぽつんと置かれていた。差出人はなく、裏面にだけ不自然に歪んだ「感謝」とだけ書かれていた。僕はその字を見た瞬間、背中がざわっとした。 字の形が、なにかを訴えかけているように感...

二十三枚目の真実

二十三枚目の真実 二十三枚目の真実 朝のFAXと静かな違和感 午前九時。事務所に届いたFAXの束を前に、ぼくはカップのインスタントコーヒーをすすった。分厚い紙の束には、ある家族の遺産分割協議書が添付されていたが、なぜか枚数がやけに多い。手元...

登記簿の番人が消えた夜

登記簿の番人が消えた夜 朝一番の依頼人 地方の朝は静かだ。蝉の鳴き声だけが耳にうるさく響く中、ドアが小さく軋んだ。入ってきたのは、やけに厚みのある封筒を持った初老の女性だった。封筒の表には震える手で書かれた「閉鎖登記簿」との文字。 「息子の...

その恋異議あり

その恋異議あり その恋異議あり 朝イチの封筒とため息 朝の事務所には蝉の声と、僕のため息が交互に響いていた。ポストに差し込まれていた白い封筒は、差出人不明のまま僕のデスクに置かれていた。何か嫌な予感がするのは、こういうときに限って当たるから...

君が相続人に選ばれた理由

君が相続人に選ばれた理由 君が相続人に選ばれた理由 相続という言葉には、得体の知れない重みがある。 ましてや、それが「自分一人だけ」となると、そこに影が差す。 その日、事務所のドアを開けたのは、見覚えのない青年だった。 朝一番の訪問者 夏の...

遺産に触れぬ者の告白

遺産に触れぬ者の告白 朝の封書とコーヒーの匂い 差出人不明の依頼状 朝、事務所に届いた一通の茶封筒。切手の消印は隣町、差出人欄は空白。コーヒーをすすりながら開封した俺は、そこに綴られた数行の文章に眉をひそめた。 「十年前に相続放棄した土地が...

赤い印の終止符

赤い印の終止符 午前九時の依頼人 朝の静寂を破るように、ドアのチャイムが鳴った。まだ湯気の立つコーヒーを片手に、俺は小さくため息をついた。いつもより早い来客に、嫌な予感がしたのは、たぶん経験からだ。 入ってきたのは、スーツの襟をただしすぎて...

名前を貸した日から

名前を貸した日から 朝の静けさに鳴る電話 事務所のルーティンを壊した一本の呼び出し 朝の事務所には、まだ誰の気配もない静けさが漂っていた。カーテン越しに差し込む陽の光と、コーヒーの湯気だけが僕を包んでいた。そんな中、突然電話のベルがけたたま...

取下書の裏に沈む影

取下書の裏に沈む影 出だしはいつもの雨音だった 事務所に届いた一枚の取下書 雨音が屋根を叩く音がやけにリズミカルで、眠気を誘う午後だった。 そんな中、郵便受けに届いた一通の封筒が、のちの事件の幕を開ける。 封筒の中には、形式だけ整った取下書...

合同会社最後の会議室

合同会社最後の会議室 不意に届いた依頼書 午前九時の来客 ある曇り空の月曜、事務所に届いた一通の封筒。差出人は解散予定の合同会社フォーリーブス。 「登記の相談をしたい」とだけ書かれた手紙に、私は一抹の違和感を覚えていた。サトウさんはいつもど...

封筒が三つ届いた朝

封筒が三つ届いた朝 朝一番の封筒 その朝、机の上に封筒が三通置かれていた。いずれも裁判所からの正式な封書。差出人名には見覚えがあるようで、ないような、妙な既視感があった。 朝イチで封筒が三通。たいてい碌なことじゃない。窓の外は晴れているのに...

兄の名義に眠る真実

兄の名義に眠る真実 朝の登記相談と一本の電話 季節外れの雨が降る朝、濡れた傘を片手に男性が事務所に現れた。話によれば、十年前に亡くなった兄の名義のまま放置された土地の登記変更をしたいという。特に揉めてはいない、ただ義務としてやらなければと思...