診断書は語らない

診断書は語らない 異変の始まりは一本の電話から その日、事務所の電話が鳴ったのは、午後三時を少し回った頃だった。夏の陽射しがカーテン越しにじりじりと照りつけていて、エアコンの効きもいまひとつだった。着信の主は、郊外にある小さな病院の事務長だ...

登記簿に残された影

登記簿に残された影 朝の書類の中に異変があった その朝、事務所に届いた郵便の束の中に、仮登記の申請書が一通混じっていた。差出人は地元ではあまり聞かない名前だったが、不動産の地番は見覚えのあるエリアだった。コーヒーをすすりながら、その書類に目...

登記簿の所有者は誰だ

登記簿の所有者は誰だ 目の前の依頼人が語った奇妙な話 その日、事務所のソファに座った依頼人は、どこか落ち着かない様子だった。 「先生、突然、マンションの名義が他人のものになっていたんです」 そう言って差し出したのは、登記簿謄本と見慣れた分譲...

失踪依頼人と未完の委任状

失踪依頼人と未完の委任状 登場人物紹介 シンドウ:うっかりだが頼れる司法書士 地方都市で司法書士事務所を営む45歳。独身。元高校球児で肩だけはまだ壊れていないが、恋愛方面は壊滅状態。愚痴とネガティブ思考が口癖で、なぜか女性にモテない。だが仕...

帳簿のなかの亡霊

帳簿のなかの亡霊 帳簿のなかの亡霊 旧家からの依頼と一通の謎の証明書 ある雨の午後、電話が鳴った。受話器越しの声は年配の女性で、代々続く旧家の者だという。彼女の言うには、「登記事項証明書が一通、どこにも見つからない」とのことだった。再発行も...

誓約書に愛は書かれていない

誓約書に愛は書かれていない 午後三時の来訪者 事務所の壁掛け時計が「カチカチ」とリズムを刻む中、扉が静かに開いた。見るからに無表情な女性が一人、スーツ姿で現れた。色味のない顔と、無駄のない動作。まるで、アニメ『ルパン三世』に出てくる銭形警部...

債権者名簿に名前がない

債権者名簿に名前がない 午前九時の来客 封筒の中の違和感 曇りがかった朝、事務所のドアがいつもより硬く鳴った。封筒を持った中年男性が、疲れきった顔で腰を折るように椅子へ沈み込む。 差し出された封筒の表には「債権者名簿」と書かれていたが、妙に...

最後に現れた家族

最後に現れた家族 はじまりは遺産相談だった 八月のじめっとした午後、事務所の扉が軋むように開いた。立っていたのは、見慣れぬ若い男性だった。 細身でスーツもどこか借り物のように見えたが、目だけはやけに真っ直ぐだった。 彼は静かに座ると、亡くな...

名前を書かない依頼人

名前を書かない依頼人 朝の静けさに忍び寄る足音 誰もいないはずの事務所 その朝、事務所に一番乗りしたのは僕だった。外はまだ霧がかかっていて、郵便受けにもチラシしか入っていない。なのに、机の上には一通の封筒が置かれていた。鍵は閉まっていたはず...

登記簿に眠る幻影

登記簿に眠る幻影 謎の依頼人と一冊の登記簿 その日、事務所の扉が軋む音とともに開いた。目深に帽子を被った女性が、一冊の登記簿のコピーを手に現れた。年の頃は五十代半ば、声はやけに落ち着いていて、「この土地、私の父のもののはずなんです」と言った...

登記簿の中の亡霊

登記簿の中の亡霊 登記簿の中の亡霊 奇妙な古家付き土地の依頼 ある朝、いつもより早く事務所に着くと、既にサトウさんが書類の整理をしていた。 机の上には分厚いファイルと「相談票」と書かれた申込書。依頼内容は「古家付き土地の売却に伴う名義変更」...

空白の筆頭

空白の筆頭 空白の筆頭 蒸し暑い午後、古びたエアコンが軋む音だけが事務所に響いていた。俺が手にしていたのは、依頼人が持参した戸籍謄本。そこには異様な空白があった。筆頭者の欄に、なにも書かれていない。 「これは……どういうことだ?」俺が独り言...

謄本が語る嘘

謄本が語る嘘 朝の静寂を破った一本の電話 事務所に差し込む朝の光は、やけに眩しかった。そんなのんびりした朝を打ち砕くように、電話が鳴った。画面には見覚えのない市外局番が表示されている。 「あの、先日お送りいただいた謄本ですが、どうやらもう一...

恋を記入した補正申出書

恋を記入した補正申出書 朝の届出と恋の気配 朝一番で届いた補正通知に、俺は思わず目をこすった。登記原因証明情報の中に、奇妙な追記がある。内容は法的なものではなく、明らかに感情が滲んでいた。 「あなたの手続きを忘れません、今もあなたを思ってい...

筆が裁く血の境

筆が裁く血の境 依頼人の名は田所 境界線を巡る不穏な相談 「この境界杭、昔はもう少し奥にあったはずなんです」 田所という老人が、地図と写真を突きつけてきた。 半世紀前の地積測量図に比べ、現在の筆界はわずかにずれている。が、それが相続財産の範...